アレンのバンド、2007年冬の欧州ツアー日程 ― 2007年09月01日 06:00
アレンの2007年冬の欧州ツアー日程でウィーンでの公演が追加された。
[2007/7/21記事] アレンが参加するエディ・デイヴィス・ニューオリンズ・バンドの07/12~08/1の欧州ツアーの日程が明らかになった。今年の特徴は年をまたいでツアーを行うこと。記念すべき08年の最初の日となる1/1は、現在新作を撮影中のバルセロナで公演を行う。
12/21 ブラッセル
12/22 ルクセンブルグ
12/23 ウィーン ←追加
12/25 パリ(公演2回)
12/27 ブダペスト
12/29 アテネ(公演2回)
12/31 リスボン
1/1 バルセロナ
1/2 サン・セバスチャン
1/3 ラ・コルナ
アレン短編「タンドーリの身代金」 ― 2007年09月01日 06:54
今年6月にウディ・アレンの短編集『単なるアナーキー(Mere Anarchy)』がランダムハウスから出版された。その中の短編を少しづつ紹介していきたい。
「タンドーリの身代金(TANDOORI RANSOM)」
ある売れない俳優が、有名俳優のスタンドイン(俳優の代わりに本番前のカメラや照明のテストを行う人物)として、ハリウッド映画のインド・ロケに参加する。ところが、彼は有名俳優と間違われて、身代金目的の犯人に誘拐されてしまう。誘拐犯はすぐに人違いに気づくが、それでも映画会社に身代金を要求する。しかし会社側はさっさと脚本を書き換え、ロケ隊は俳優を見捨てて別の地に移ってしまう。万事休すと思われたが、ランボー顔負けの救出劇によって、俳優は窮地を脱する。助けてくれた人物の正体を知って、俳優はびっくりする。それは彼にスタンドインの仕事を紹介したハリウッドのエージェントだったのだ。命をかけて救出してくれた理由を聞くとエージェント曰く、俳優を主役にした映画の仕事のオファーがあったから来たと言う。だが、その映画とはコロンビアの麻薬ギャングを扱ったアクション物で、ジャングルでの撮影が危険なために誰も出演したがらないものだった。それを耳にした俳優はすぐさま逃げ出し、俳優をやめる決意をするのだった。
アレン短編集『単なるアナーキー』 http://hajime.asablo.jp/blog/2007/01/09/1102158
アレン短編「サム、ズボンの香りがきつすぎるよ」 ― 2007年09月04日 06:14
「サム、ズボンの香りがきつすぎるよ(SAM, YOU MADE THE PANTS TOO FRAGRANT)」
久しぶりに会った友人が着ていた奇妙な服。それは健康のための水分補給がいつでもできるよう、内側のタンクの水を胸ポケットからストローで吸えるという代物だった。興味を引かれた主人公はイギリスのセビル・ロウにあるその店へ行ってみる。英国英語ならではの大変にもったいぶった言い回しをする店員と珍妙なやり取りをしながら、主人公は様々な服を見せられる。食べ物をこぼしても一切しみのつかない服、情事用に一切においのつかない服、精神安定作用のある服など。主人公は、こするだけで携帯電話が充電できる服が気に入って買おうとするが、服を着たまま金属を触ったために感電して大爆発で飛ばされて重傷を負った客が何人もいることを知り、あわてて店を去る。
アレン短編「美容体操、毒ツタ、最終カット」 ― 2007年09月04日 06:26
「美容体操、毒ツタ、最終カット(CALISTHENICS, POISON IVY, FINAL CUT)」
息子がサマーキャンプで製作した映画に対し、映画会社から1600万ドルで配給料の申し出があるが、キャンプの経営者ヴァーニシュクから配給料の50%を要求する手紙が届く。主人公とヴァーニシュクは、不毛でナンセンスな書簡のやり取りをする。完成した映画はキャンプの講師の指導のおかげと主張するヴァーニシュクに対し、映画のアイデアは息子のもので、講師はいかさま揃いだったと反論する主人公。訴訟をにおわせつつ、ネガのオリジナルを握っているのは自分だと主張するヴァーニシュク。自分達の持っているプリントからでもネガは作れると強がる主人公に対し、早くしないとネガが破壊されると脅すヴァーニシュク。ついに主人公側は配給料の10%を提案する。するとヴァーニシュクはがらりと態度を変え、丁寧な手紙を書きつつ、20%につりあげようとする。
映画契約をめぐるハリウッド流の熾烈な交渉をパロディ化した短編。そもそも子供が製作した映画に映画会社が巨額の金額で配給契約を結ぼうとするあたりがナンセンスなのだが、互いに相手に罵詈雑言を投げかけつつ、主張すべきをきちんと主張するあたりは現実の映画界もかくやと思わせる。最後にようやく配給料の10%を手にしたヴァーニシュクが更にそれを20%に値上げしようとするしぶとさには脱帽。一連のやりとりには長年のパートナーだったジーン・ドゥマニアンに収益配分の訴訟を起こしたアレンの経験が盛り込まれていると見られる。
アレン短編「神に栄光あれ、売った!」 ― 2007年09月11日 07:13
「神に栄光あれ、売った!(GLORY, HALLELUJAH, SOLD!)」
テレビ番組の大失敗で仕事を失ったライターが、ヴィレッジ・ヴォイス誌で見つけた求人広告。それは客の求めに応じた神への祈りの文句を書く仕事だった。健康、恋愛、仕事、それぞれの悩みに応じた祈りの言葉を仕上げるのだ。時には祈りが通じないと文句をつけてくる客もいるが、それは店と神にとって契約外だとつっぱねる。ライターは順調に仕事を続け、インターネットサイトのeベイで祈りを売るようにもなった。だがある日、ライターは祈りが通じないと文句をつけてきたギャング2人組に殺すと脅される。彼らの妹がeベイで200ドルを払った「アッパーイーストに2ベッドルームでダイニング・キッチン付きの部屋が見つかりますように」という祈りが原因だった。命を取り留めたライターは仕事をあきらめてメキシコに逃れるのだった。
アレン短編「いとしの家政婦」 ― 2007年09月14日 06:19
「いとしの家政婦(NANNY DEAREST)」
ウォール街の大金持ちの弁護士が妻からの電話で、最近雇った家政婦が自分達の家庭の内情についての暴露本を書いていることを知る。慌てて家に帰り、原稿をこっそり読むと、本は自分の家庭について面白おかしく書いている。そんなものが出版されたら、自分達は破滅だ。しかも原稿はほとんど完成している。本の出版を食い止めるため、弁護士は帰ってきた家政婦に毒入り紅茶を飲まそうとする。が、彼は誤って自分でそれを飲んでしまい、昏倒する。病院で気がつくと、すでに家政婦は辞めており、置手紙によれば、本を書こうと思っていたが、普通のIQの人間には面白くなさそうなので出版はやめ、町で出会った億万長者と結婚するという。
【一口メモ】子供の養育権をめぐるアレンとミア・ファローの泥仕合のさなか、二人の家政婦だった女性が暴露本を出したことがあり、この短編はそのことをモチーフにしている。ウォール街の弁護士は「エディプス・コンプレックス」でアレンが演じた人物を思い出させる。弁護士のどじぶりはアレン映画でおなじみのパターンである。
アレン短編「我が恋人よ、何という嗜好を身につけたことか」 ― 2007年09月14日 06:34
「我が恋人よ、何という嗜好を身につけたことか(HOW DEADLY YOUR TASTE BUDS, MY SWEET)」
私立探偵のもとに美女がかけこんできて、サザビーのオークションで匿名でトリュフを落札してほしいと依頼する。2000万ドルの価値があるいわくつきのトリュフで、多くの組織が手に入れたがっているとか。早速サザビーにかけこんだ探偵は首尾よくトリュフを落札する。だが、依頼人の住居に行った探偵は何者かに殴られて失神。気がつくと彼は縛られ、依頼人とグルになった男からトリュフを出すよう脅される。探偵がありかを教えると男はトリュフを持参するが、それは偽物だった。男が気落ちして部屋を出た隙に、依頼人の美女は探偵の縄を解いて、自分と組んで本物のトリュフを探そうと誘惑する。が、探偵は美女の正体を見抜いて(以前パートナーだった国際的なグルメの殺人犯として)警察に引き渡す。そして一人わびしくカーネギーデリでサンドイッチをぱくつくのだった。
【一口メモ】アレン短編でおなじみの私立探偵カイザー・ルポウィッツが活躍する珍妙なハードボイルド物。(ただし本作では探偵の名前は明示されない。)前作では、神を捜したり、インテリ向けコールガール組織と対決した探偵は、本作ではいわくつきのトリュフ(マンダレイの王族が所持した後、ルーブル美術館に飾られ、第二次大戦中にドイツ軍に略奪され、戦後は大英帝国博物館から盗まれた)の争奪戦に巻き込まれる。映画「マルタの鷹」のパロディ。ラストで探偵はサンドイッチを「夢のかたまり」と形容する。
アレン、9/17よりカーライルでの演奏を再開 ― 2007年09月16日 06:30
スペインでの新作ロケのためにカフェ・カーライルでの演奏を中断していたアレンは、スペインでの撮影が終了したため、9/17(月)よりカーライルでの演奏を再開する。もっともアレンはスペイン・ロケ中も、現地でエディ・デイヴィスの演奏会に参加し、音楽活動を続けていた。新作のタイトルや公開時期は未定。
『ギルダ』 ― 2007年09月19日 06:16
DVDで『ギルダ』を見る。リタ・ヘイワースがヴァンプを演じて出世作となった作品。グレン・フォードがかつて結婚して離婚し、再会したヘイワースをなぜか執拗に拒み続ける。映画では明確に描かれていないが、フォードは同性愛者で、ヘイワースを(精神的にも肉体的にも)愛することができない。そしてフォードはヘイワースの今の夫である自分のボスへの愛情のために、彼女が奔放な行動を取るのを防ごうとする。一方でヘイワースは今でもフォードを愛しており、彼の気を引くためにわざと奔放な行動を取ろうとする。そうした奇妙な三角関係を軸に、ボスの秘密のビジネスとそれをめぐる殺人が絡む。おそらくフォードの同性愛は脚本ではもう少し明確に書かれていたと思うが、当然当時の映画界ではそれを描くことはできず、フォードが単にヘイワースの愛を拒み続けるようにしか見えない。作品としてはやや単調で起伏も少ないが、そうした作品の背景を考えると興味深い。リタ・ヘイワースはヴァンプ(妖婦)だが、心の底ではフォードを愛しているあたりが悪女ではなく善人のキャラクターとなっている。
「望郷 サンダカン八番娼館」 ― 2007年09月23日 06:44
「望郷 サンダカン八番娼館」をDVDで見る。熊井啓監督の代表作。よくできているし、力も入っている。田中絹代と高橋洋子の演技が素晴らしい。天草ロケも効果的な映像をもたらしている。ただ欲を言えば、これは原作の問題かもしれないが、主人公たちカラユキさんがなぜ日本に背を向けた墓標を立てるほど、日本を憎むに至ったか、そのへんの突込みがもう少し欲しかった。主人公への周囲の冷たさを、帰国した時の兄夫婦に集約していたが、主人公が「故郷に裏切られた」と感じるにはもう一押しあってもよかったと思う。現代の場面で、栗原小巻がジャーナリストと知った村人が大勢で田中絹代に詰め寄るシーンでは、村人の閉鎖性といやらしさをとことん描いていた。あのノリが回想シーンの方にもあればよかったと思う。